帰省
台風と美女
誰かが言っていた。
台風を口実に女性の家に一晩泊めてもらいたいと。
言ったやつは男だった。
一般的に逆のことはよく語られるものだが、男が女の家に一晩泊めてくれとは古今きいたことがない。
良く物語られる話のタイプでは、女が泊まりにくる。
泊りにきた女には何かがある。
恩返しにきたのかもしれないし、あるいは男を殺しにきたのかもしれない。
物語の嚆矢となりがちである。
対して男が女の家に、とは上の例のような童話やホラーのようなたぐいではそうそう見かけない。
この理由には、男が訪ねてくるというエピソードは物語には向かないことが考えられる。
男が女を突然訪ねていくなんて、現実を見れば目的はちょっとした情事しかないではないか。
そんなの、生々しくて広く語れる話にはできない。
<夏の怖い話>
お母さん「みっちゃん、今日は怖いお話をしてあげるわね。あるところに女の人がひとりで暮らしてたの。ある台風の夜にね、突然玄関のベルがなって、びっくりしながらどちら様ですかってきいてみたのね。そしたら、ひどく震えた声の男の人が、台風で帰れなくなったから今夜一晩泊めてくれって言ってきたの。女の人はとてもやさしかったから、泊めてあげることにしたそうよ。そうして生まれたのがあなたよ。」
皮と毛と埃
皮は毛のように禿げることはできないけれど、
あの毛は皮のように剥かれることはできない。
毛は埃のように喉を傷めることはできないけれど、
あの埃は皮のように再生はできない。
みんなちがってみんな善い。
シチューをつくった
シチューをつくった。
一人暮らしになってからは初めてのことで、久々のシチューの味に懐かしさを感じた。
今回つかったルウは、よく見るブロックタイプのものではなくて、顆粒状のものだった。
こんなものもあるのかと興味を引かれ、買ってみた。
具材はありきたりなにんじん、じゃがいも、玉ねぎ、鳥肉であった。
そこにはごろもフーズのしゃきっとコーンをくわえた(CMがなつかしい)。
はじめての顆粒シチューはどんな味だったか。
食べてみると、給食を思い出した。
なんとも平穏な味、匂い。
スタンダードかつ異色な(コーンぶちこんだ)具材。
見ても食べても給食を想起させる。
食パンでディップしたらおいしそうだと思いそうする。
よく考えたら、それは給食の時によくやっていたことだった。
ますます給食となる。
ただ、飲み物は牛乳ではなかった。
本来ならシチューをつくる際に牛乳が必須となるため買わなければならなかったのだが、買っていなかった。
牛乳があれば本格的に給食だったのに、悔やまれる。
代わりに、バジルを振ったサイダーを飲んだ。
これがなかなかおいしかったので、国民的食べ合わせとして普及したい。
オフ日
今日は発想のオフ日
オフオフオフオフ
OFFOFFOFFOFFOFFOFFOFFOFFOFF
オフ
海の先
海の先には何があるか。
むかしの人々は考えた。
それはよく死だとされた。
目に見えないなにものかがあちらにある。
見えないもの、たしかでないものは畏怖の対象であった。
弱さである。
ストレスの原因のひとつは、予測不可能性とされる。
昏くなったみちの先、わたしのうしろ、単位不獲得、エトセトラ…
わからないとはなんと恐ろしいことか。
さあしかし、時代はくだった。
世界はひろがった。
海の向こうには人がいて、自分たちと同じように生死を営んでいた。
人々は野心をいだいた。
死はなかった、乗り越えた。では生を確保しよう、と。
そうして海の向こうへわたり、彼らはくらしを追いやり、自らの生を拡大した。
海の先には何があったか。
やはり死か。
自然があれば、生きるも死ぬも一体であった。
海をまわればわたしのうしろ。
地動説なので、時代によってはぼくが死ぬ。
世界一テスト勉強に近い男
世界一テスト勉強に近い男は妥協をしない。
いや、妥協は許されない。
もっともテスト勉強に近い位置にいて、そこから動かない。
近づかないし、はなれない。
勉強をする気は誰よりもある。
かつ、勉強をするつもりは誰よりもない。
二律背反を体現した者である。
「テスト勉強しなかったんだよね〜」←した など以ての外だ。
近さとは遠さである。
接すればもはや世界一の誉れを失う。
そうだ、私は世界一テスト勉強に近い男。